神秘家列伝

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 水木しげるさんが世界に名だたる神秘家たちの伝記をマンガに画いた。角川ソフィア文庫から4巻にして発売されている。
 内外の17人を神秘家として取り上げているが、その中には、神秘家として分類するのはどうだろうと、思える人物もある。
 たとえば、反骨のジャーナリスト宮武外骨哲学堂をつくった井上円了民俗学者柳田国男怪奇小説はたしかに書いたが神秘家とはいえない作家の泉鏡花などがそれである。

 神秘家の定義が水木しげる流だと割り切って、そうした人物の伝記を水木さんのマンガの筆で、文庫サイズの80ページほどで読めるのは、なによりも便利である。
 歴史上の人物の一生って、おおよそ知っているようでいても、まとまった伝記はあんがい読んでいないものです。

 さて、4巻で取り上げられた神秘家の名前を列記してみよう。

 〈其の壱〉 スウェーデンボルグ
       ミラレバ
       マカンダル
       明恵

 〈其の弐〉 安倍晴明
       長南年恵
       コナン・ドイル
       宮武外骨

 〈其の参〉 出口王仁三郎
       役小角
       井上円了
       平田篤胤

 〈其の四〉 仙台四郎
       天狗小僧寅吉
       駿府の安鶴
       柳田国男
       泉鏡花

 ここに並んだ名前をみれば、一冊630円(税別)ほどの文庫を、4巻まとめて買いたくなるはずです。

 スウェーデンボルグスウェーデンが産んだ世界的に有名な神秘家で、これら17人のうち、もっとも
神秘家らしい神秘家、最大の神秘家といえるだろう。彼の予言や予知能力は、いまでもヨーロッパでは語りぐさになっているほど見事なものだったといわれている。
 僕も学生の頃、彼の霊界旅行記を読んだものだが、翻訳の文章が読みにくくて、とうとう途中で投げて
しまったことがある。

 ミラレバはチベットの行者で、ついには自在に空を飛ぶことができた苦行の覚者。

 マカンダルはアフリカからハイチにつれてこられた奴隷たちの中のリーダーで、ヴードゥー教を利用して、白人の支配に抵抗していく男であり、はじめて水木さんの本で知った悲惨な物語だった。

 〈其の弐〉では超能力のある女の話「長南年恵」がだんぜん面白い。年恵という女は、絶食絶飲して14年にもなるのに、両便はなく、50になっても20以下に見えた。神懸かりになると、数十本の空き瓶に数分にして“霊水”を満たすことが出来た、うんぬん。いや、興味津々のものがたり。

 出口王仁三郎は、いってみれば日本のスウェーデンボルグです。大本教団を興し、やがて治安維持法違反、不敬罪にとわれて国家の弾圧をうけることになるが、日本でもっとも神秘家らしい神秘家といえる。

 仙台四郎駿府の安鶴さんは、世間にはあまり知られていないようだが、地元では、いまも不思議な
能力の持ち主として語り継がれているのだそうだ。

 水木しげるさんには博物学民俗学者である南方熊楠の生涯を描いた『猫楠』もあって、
これも一読に値します。

 こうした作品が近年は手軽な文庫本で読めるようになって、たいへん便利です。