毛髪からつくる醤油

 

中国製の粗悪な食品や薬品が内外で問題になっています。そうした報道の中に、人間の頭髪を使って生産した醤油があり、中国政府による再三の生産禁止令にもかかわらず、いまだに中国各地で密造されて、低級な醤油として販売されている、というニュースが7月はじめにありました。

 ええっ、ウッソー。記事を読んでびっくりした人は、このわくわく亭ばかりではないでしょう。

 
 人間の頭髪には鉛をはじめとする有害な重金属が含まれており、それを食用にして摂取することは人体に危険を及ぼすおそれがあるという理由で、中国では生産が禁止されているのです。
 それでも密造が跡を断たないのは、醤油の製造原価が格段に安いため根強い需要がある、という事情のようです。

 「日経ビジネス」の記者によるルポを読みました。(昨年6月ころのもの)
 記者は中国山東省のアミノ酸工場を訪れて、実態をレポートしていました。

 人間の頭髪は全国の理髪店から、毛くずを買う業者の手で買い集められ、「元締め」のもとに送られる。元締めは、それをアミノ酸工場に売る、という流通経路ができているのだそうです。

 工場では、毛髪を原料にしてアミノ酸を製造し、それは工業用として輸出されます。アミノ酸製造時に副産物としてアミノ酸母液というものがつくられ、それが醤油の原料になるのだそうです。

 醤油用のアミノ酸は普通、大豆や穀物を発酵させてつくります。(日本も同様で、魚などの動物性のタンパク質を原料に造ると、醤油としての販売ができないのだそうですね)

 醤油に含まれるアミノ酸の基準値を満たさないと販売が許可されませんから、低級の醤油では安い頭髪製アミノ酸ブレンドして基準値をクリアさせて販売するのだそうです。
 頭髪醤油は大豆原料の醤油とくらべると、原価は50%、あるいは1/3という大差がつくらしい。

 そうした低級醤油にはラベルに「ブレンド」と表示しているケースもあり、(工場の従業員など)事情を知っているものは、安くても買わないそうです。

 ウッソー、シンジラレナイ、というのは、これでおしまいではないのです。


 わくわく亭がこの記事を書いたのは、じつは日本でも頭髪醤油がつくられていたと知ったからなんです。

 ウッソー、シンジラレナイ、でしょ。

 国が貧しく、国民が飢えているところでは、国がちがっても、人々は同じことをやっているって、ことですね。

 日本では戦中、戦後の物資不足の時代、毛くずは工業用のアミノ酸原料になっていたし、代用醤油の原料になっていたのだそうです。(上記の「日経ビジネス」記事による)
 現在では、工業用途であっても、毛髪を原料につかっていないそうですが。

 毛髪から醤油をつくるのは簡単だそうで、毛くずを10%の塩酸に入れて24時間煮沸する、濾過して
苛性ソーダで中和する、あるいは水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムで中和してつくるのだそうです。

 中国の中央テレビが、食品監査部が摘発した違法な食品加工工場の実態、として報道した中に、頭髪醤油があったのでしょう。
 その報道を見た日本テレビが、(わくわく亭は見ていないのですが)ある番組で実験的に毛くずから醤油をつくってみせて、その醤油をつけて寿司を食べたタレントもいたという話ですね。

 (テレビのバラエティー番組では、なんでもやって見せたりするが、そこまでしなくても、というものがたくさんあるでしょう。やりすぎると、関西テレビのインチキ番組になったりするから)


 ネットで見つけた記事ですが、昭和14年(戦争が近くなって、物資の統制がなされていた時代)の新聞記事で、見出しは「奇想天外、人髪も旨く食べます」というもの。

 「ある薬品で頭髪をこんにゃく状にして、ソースや醤油で、おいしく、栄養分として食べられます……」

 料理法を説明する主婦の写真ものっていました。
 いまでは、そんなシンジラレナイことが、日本にもあったわけだ。

 他国のニュースに、びっくり、というときに、はたして自分の国ではどうだったのか、ふりかえって考えてみるべきだと、この中国の頭髪醤油報道で、改めてかんがえてみたしだいです。
 (これだって、歴史認識問題の一端です)