谷口ジローさん死去

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新聞報道によると、漫画家の谷口ジローさんが2月11日に69歳で亡くなった。

関川夏央谷口ジローによる『「坊っちゃん」の時代』が1998年の手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞

したときに読んだのが谷口ジロー作品の初体験だった。ついで『父の暦』を読んでから、つぎつぎと

買って読んだ。『孤独のグルメ』『冬の動物園』『歩くひと』『犬を飼う』『欅の木』『事件屋家業』

『晴れゆく空』『ふらり』そして『遥かな町へ』である。

本の帯に「マンガ界の小津安二郎」と紹介される場合があるのも頷ける、そんな大人好みのマンガが多

い。

なかでもわくわく亭が好きなのは『遥かな町へ』である。東京に暮らす中年の男が京都の出張する。

帰ろうとして何を間違えたのか、東京行きの新幹線に乗らず、かわりに在来線で郷里の倉吉へ行って

しまう。そこには先祖の墓以外になにも残ってはいない。墓地に行ったものの、そこで倒れてしまい、

長い夢を見る。男が中学生だった自分にタイムスリップする。洋服屋だった父の人生を、父の年齢に

なった男には、今になって解ることがある。「青春を再体験する物語です。テーマは、あの時こうして

おけばよかったという後悔、やり直したいという願望。独創性というより、人間の普遍的な要素が共感

を得る場合が多いのかもしれません。私の漫画は普通の人の日常を描いた大人向けの作品が多いのです

が、欧州にはそうした文学風の漫画を受け入れる文化があります。それが、ヒーロー物を中心とした少

年、若者向けの漫画が主流の米国より、欧州で評価される理由なのかもしれません」と作者が自作に

ついて語っている。

そうなのです。谷口ジローのマンガは日本より欧州での評価が高い。

ヨーロッパで翻訳されている作品は、「父の暦」(スペイン語、フランス語)、「晴れゆく空」(イタ

リー語)、「遙かな町へ」(フランス語、イタリー語、ドイツ語)、神々の山嶺」(フランス語)といっ

た具合。そして2010年に『遙かな町へ』は舞台をリヨン近郊としたフランス映画になる。ベルギー、

ルクセンブルク、フランス、ドイツの共同製作で映画化されたのだ。欧州での谷口作品の人気がどれだけ

高いか、それを証明している。フランスでは数々のマンガ芸術賞を受賞して、ついには2011年に

フランスの芸術文化勲章のひとつであるシュバリエ章を受章する。

谷口ジロー作品が市井の人生を描いて欧州人の人気が高いのは、小津安二郎映画が欧州で評価が高いこと

をあわせて思い起こさせる。

谷口ジローさんの69年の生涯は短すぎるが、小津映画がいつまでも愛されているように、今後も

長く読み継がれて行って欲しいと思う。