映画「ハンナ・アーレント」

イメージ 1

テレビ「WOWOW」で2012年製作のドイツ映画「ハンナ・アーレント」を見る。

ドイツ生まれのユダヤ人であるハンナは政治哲学者。ドイツの大学ではハイデガーを哲学の師と
するが、彼の不倫の愛人となる。ドイツにナチスが擡頭するとハイデガーナチス党員となり
ヒトラーを公然と支持する。ハンナはアメリカへ亡命して政治哲学者として大学で教鞭をとることになる。

ハンナはエルサレムで行われたアイヒマン裁判を傍聴し、雑誌「ニューヨーカー」に裁判レポートを
連載する。その記事の中に「悪の陳腐さについての報告」「悪の凡庸さ」という言葉を使うのだが
それに対してユダヤ人社会からすさまじい非難と攻撃をうけることとなる。

アイヒマンを極悪非道の悪魔的犯罪者として裁こうとするユダヤ人社会からすると、
アイヒマンは裁判で一貫して「国家組織からの命令に忠実に従っただけである」と主張するのを、
ハンナは「悪の陳腐さ」「悪の凡庸さ」と呼び、かかる思考の欠如した凡庸さが育んだのが表層的な悪
であり、ナチスという全体主義の落とし穴だったと論考したが、それはアイヒマンの悪を軽視したもの
と受け取られて激しく非難されたのだ。

ハンナはすべてのユダヤ人の友人を失ってしまう。それでも自分の論考は正しいと信念をつらぬいて
1975年心臓麻痺でNYで死去する。享年69.
映画の初めから終わりまでハンナは煙草を口から離すことがない。

ずしんと胸にこたえる重厚な映画だった。見応えある作品。