伝説のはじまり
中村勘三郎が57歳の若さで死去して、すでにさまざまな場所で、すぐれた追悼文が書かれている。
これから、伝記も書かれることだろう。そして、歳月が過ぎて行くうちに、勘三郎伝説というものも
伝えられるようになるだろう。
それを読むと、そうか、すでに勘三郎の伝説ははじまっているのだと、わくわく亭は思った。
そのごく一部分を紹介する。
僕は中村勘三郎という不思議な生き物を知っていた。 ―――――― けれど人間的に振る舞おうとする彼の挙動は、あまりに人間的すぎて不自然な気がした。 だから僕はすぐにピンと来た。彼は芝居の神様の子どもだったか、そうでなければ、神様の まわりでおどけていた魔物の小僧だったのだ。そしてこの世に遣わされた。 ―――――― ああ勘三郎さん、もう一度あなたと話がしたい。肩を抱えあって笑いたい。 何故芝居の神様は彼を急に呼びもどしたのだろう?僕の能力ではどうしても理解できない。 誰も彼のことを決して忘れないだろうけど、いつか彼のことを幻だったのかもしれないと思い出す。 その時彼は不思議な信号で、僕たちに大切なたくさんのことを語り出すだろう。 ――――――
こうして、名優といわれた人の伝説ははじまるのだ。
(写真は林義勝撮影の中村勘九郎演じる「春興鏡獅子」)