谷口ジローの『ふらり。』

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新聞に、この「ふらり。」の書評が載っていたのを見て、読みたいと思いながら、

そのうちに忘れていた。

去年12月はじめ、大泉学園ブックオフで見かけて、思い出した。

「ラッキー」と買ったのだが、定価876円が500円だったから、古本としては

ラッキーと手放しで喜ぶほどの安値でもない。

ただ、一度は読みたいと思った本に、古本屋で出逢うというハプニングを喜んだしだい。



ブルーの帯に「祝 仏芸術文化勲章受章!!」とある。

2011年6月に、作者の谷口ジロー氏はフランス政府芸術文化勲章シュヴァリエ章を受章している。

奥付を見ると、第一刷発行は4月。

わくわく亭が買ったのは第四刷で、発行は7月。ということは受賞が決定して、いそいで

帯を付け替えたと思われる。


なにしろ、谷口ジローの作品はヨーロッパ、とくにフランスとイタリヤで評価が高く、

日本での評価をしのいでいるそうだから、この受賞もフランスでは当然なのかもしれない。


さて、「ふらり。」だが、買ってきて、読み始めてみたものの、2話読んだところで

他の本へと興味が移ってしまい、そのままになっていた。

今日になって、読み直したのだが、やはり迫力不足を感じて、すこし不満が残った。

作品は 現在の千葉県香取市で酒造や金融で資産家となり、隠居して江戸に移り住んだ伊能忠敬

蝦夷地測量に旅立つまでの、江戸市中を歩き回って、一歩=二尺三寸(70センチ)を

基準に実測する日常を、のんびり、しっかり、そして愛妻家として、ほんわか、とした

筆致で描いたもの。

作者は、そうした「ほんわか」とした人間として伊能忠敬を描きたかったのだと分かるが、

歩いて実測する男の「執念」が漂ってこないのが、不満に感じたのだと思われる。


それはさておいて、「歩く」人を描くのが谷口ジローは好きらしい。

彼には、ずばり『歩くひと』という作品がある。

これは内容の充実したいい本である。

帯には「小津作品のような味わいを堪能」とある。歩くような人の日常のなかにある

充足感を取り出してみせる作者の基本的な姿勢が、腰をすえた傑作なのだ。

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