橙
沖縄旅行から戻ってきて、久しぶりのウォーキングである。
なにしろ沖縄では、どこへいくのも車だから、歩くことがない。
お決まりのコースを歩いて、駅の南側にあるスターバックスで一休み。
ガラスに向かうカウンター席で本を読む。
渡辺京二の『逝きし世の面影』の第9章を開く。9章は「女の位相」である。
左隣には、女子高生が熱心に、なにやらノートに書き写している。
30分ほど経った。
そろそろ帰るとするか。
すると、となりの女子高生から声がかかった。
「あの、すみません。これは何と読むのでしょうか」
ノートを見せる。
ちらと顔をみると、高校の1年生か2年生くらいで、かわいい顔をした少女である。
小さな字を書いている。「橙」である。
「わかります」
「よかった。僕に読める字で」とわくわく亭は、ほっとして笑った。
それから、席を立って、ではお先に、と声をかける。
「ありがとうございました」と少女。
なにか、気分がいい。
小雨が降っているので、折り畳み傘をひろげる。
まだ、いい気分はのこっている。
それだけのことで、わくわく亭には、いい一日になる。