無惨!池宮彰一郎

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池宮彰一郎原作の映画「十三人の刺客」が9月公開された。

たしか3度目の映画化だった。

そして、12月といえば「忠臣蔵」であり、ドラマ「最後の忠臣蔵」がテレビ放送された。

それも池宮彰一郎の原作である。

池宮さんは、本名の池上金男で時代劇映画の脚本を長年書いてきた。

そのバックボーンを資産として、歴史小説を書き始めたのだが、第一作が、

この「四十七人の刺客」(新潮社)で、一躍人気作家となった。

1992年だった。

69歳の新人ということで、本の帯文には「驚異の新人作品 登場!」

と華々しく紹介されたものだ。

読んでみると、評判通りの面白さだった。

守る側の吉良邸では、浅野浪士の討ち入りは必至と予測していたから、邸内を要塞に改造して

迎え撃つ準備をするなど、実に合理的な事件解釈をした迫力満点の攻防戦として書かれた。


池宮さんは次々と連載小説を書くことになったから、わくわく亭は単行本になったら買って

読むつもりでいたのだが、それらの本は書店で見かける前に、姿を消していった。

「島津奔る」(新潮社 1998年)

「遁げろ家康」(朝日新聞社 1999年)

あとになって知ったことだが、出版後に、内容や、文章に他の作家作品との「類似」が多く、

盗作だという批判がなされたのだ。

「島津奔る」は司馬遼太郎の「覇王の家」、「逃げろ家康」は司馬遼太郎の「関ヶ原

からの「盗用」だと指摘されている。

おそらく、にわかに人気作家となって、執筆依頼が殺到して多忙のあまり、池宮さんが尊敬していた

司馬作品を参考にしようと、コピーしたりメモしたりしていた資料文献を、自分の

なかに消化してしまう過程を抜かしてしまって、元の資料文献をほとんどナマの儘、自作に

書き込んでしまったのではあるまいか。75~76歳という池宮さんの高齢も影響しただろう。

とにかく、

「島津奔る」は2002年、「遁げろ家康」は2003年に絶版、回収された。


この事件は池宮彰一郎の作家生命を絶ったも同然で、池宮さんは2007年に失意のうちに

84歳で他界している。

「盗作」批判の後に、角川書店から出版された「平家」についても、吉川英治の「新平家物語

との過剰な「類似」が指摘されている。


池宮彰一郎あるいは池上金男の原作・脚本で作られたドラマ、映画はスピード感、迫力、

合理性があって面白く、これからも映像化されると思うのだが、

四十七人の刺客」などの忠臣蔵ものの作家として終わっていたなら、汚名を着ることには

ならなかっただろうに。

無惨!池宮彰一郎