薄暮の散歩

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気温が30度を超えて、湿度が70%というのは熱中症になる最悪の条件だといいますね。

そんな時間帯に散歩はできません。

日が落ちて、コウモリが白子川の上空を飛び交う薄暮の時間になって、

わくわく亭も家の外に出て行くのです。

お隣の奥さんが、

「いまからお出かけですか?」とお尋ねです。

「はい。コウモリみたいなものです」と返事をしましたが、

「コウモリ?」とけげんな顔です。なんのことか、お分かりにならなかったのでしょう。



この写真は大泉学園の駅近い、裏道で6月の終わりに撮ったもの。

ブルーのシャッターが下りている建物は、いまではきれいに模様替えされていますが、

もとはイラン人と思われるおじさんが雑貨店を開いていました。

さまざまな色をした小石や素朴なアクセサリー、卓上人形やスカーフなどを

並べていましたが、いつ見てもお客の入っている姿はありませんでした。

ある日、6月の中頃、閉店の案内をした張り紙が出ました。

6月末で店じまいするというもので、全品を30~50%値引きして売る尽しセール

をするという張り紙でした。

軒下に小さな照明器をとりつけ、入り口の地面に七色のクリスタルな光が回転しました。

小学生らしい女の子たち数人が、イラン人のおじさんに色石やペルシャ人形の

説明を聞いていることがありましたが、あまり売れている様子はみえません。

そして閉店しました。


わくわく亭は、この異邦人がどんな希望と目的をもって日本に来たのか、

なにを実現したか、なにに失望したか。イスラム革命のあったイランに

帰っていったとして、日本は彼にとって、どんな影響を与えたか。

さいごのお客となってくれた日本の少女たちに、どんな印象をもったろうか。

などなど、さまざまな想像をします。

この裏道を歩くたびに、イラン人の彼と少女たちの交流の物語をいろいろ

こしらえてみるのです。

今日も温度計は玄関の内側で32度です。湿度は65%です。

気がつけば、外は暗くなっており、コウモリも石垣の穴に戻ったころでしょう。

どうするか。

散歩はやめるか。

散歩すると、頭には書きかけの小説のストーリーや文章が湧いてくるものです。

では、出かけて、この写真の道を歩いてきますか。