「レモンの香りが」

先月尾道へ行ったときに、尾道在住の詩人山口美沙子さんには会えなかった。

ちょうど,その日に彼女のお姉さんの夏子さんが亡くなったためだった。

夏子さんには、わたしも学生の頃、ほんの2度ばかりお会いしたことがあったが、

とても美しい人だった。

じっとしていないで、すぐに身体が動いてしまうというような、活動的なお人にみえた。

病気で入院なさっていると聞いてはいたが、まさか、あの日に他界なさろうとは。

今日、山口さんからメールでおしらせがあった。

「レモンの香りが」という哀傷の詩が添えられていた。

ブログに掲載して、ご冥福を祈ります。

レモンの香りいっぱいの、夏子さんに、さようなら、と。


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                                             レモンの香りが                           山口美沙子                                            眠っている夏子は           好きな野あざみの咲いている           明るい小路を歩いているのだろう           時折 白い歯を見せて           微笑んでいる           中学生の時 登校中に           川土手からすべり落ちた私を横目下に           疾走して行った夏子           セーラー服の腰まで濡れて流れいく筆箱を追いながら              私は見ていた           長い髪の腰のあたりが 笑いで小刻みに震えながら           遠ざかっていく姿を           あれが姉かと 母に云いつけたその横で           ドジとまた大笑いされた           いつも人々の輪の中央にいた美しい           夏子の光は 行く手を照らし           目をつむっても落ちたりはしない           日々の道行きで 深い草むらや闇の中からも             目指すものを手にしていた             崖っぷちをいくつも越し 森を抜け           今確かなその場所にたどりついたのだろう―           たわわに実ったレモンを両の手いっぱいに             つややかな緑の葉に染まり           答えのかたちして立っている              すっきりと目覚めた夏子から           レモンの黄の香りが漂い           しばし遠い目で宙をみつめている