朋有り遠方より来たる
きのうの朝、8時半ころ電話が鳴った。
「わたしは、あなたと高校の同期だった〇〇です。いま大泉学園の駅にいます。
5分間でもいいので、お会いできないでしょうか」
「尾道からお出でたのですか」
「はい。夜行バスで着いたところです」
「わが家の場所はお分かりになりますか」
「だいたいわかります」
「では、バスを利用なさるといいでしょう」
わくわく亭は、尾道からの遠来の来訪者で、高校の同期生だったと聞いただけで、
要件も聞きたださず、道順をおしえた。
出かける支度をしていた女房が、
「大阪のお友達からも留守電が入っていますよ。東京都議会議員選挙の告示が明日あるから、
その件ですよ。きっと尾道からの人も、訪問の目的はそれじゃないですか」
「あっ、そうか。〇〇党の応援か」
ものの20分ほどで、玄関のチャイムが鳴った。
2人連れの男性が小雨の中に立っていた。
あいさつもそこそこに、招じ入れる。
「高校一年と二年のとき、同級でした。K先生が担任でした。あなたは昔の面影が残っています」
「そうですか」
しかし、わたしは相手の顔にはっきりした記憶がない。
「これにサインしてください」
「最近尾道駅前の啓文社で買いまして、昨夜のバスの中で読みながらやってきました。
一緒に過ごした高校時代が書かれていて、とても面白いです」
本にサインをして、お二人には、わくわく亭がお茶を出す。
訪問の目的は、やはり都議選では、〇〇党の候補者に票を入れて欲しいという要望だったが、
お二人とも慣れない仕事を、ためらいながらやっているという具合で、
まるで説得力はない。
わくわく亭が投票したい党ではないので、理由を述べて、お断りをした。
「このあと何件くらい回る予定ですか」
「あと9件です。夜には尾道に帰ります」
「新幹線で?」
「いいえ、夜行バスで。それでも往復で2万円近く掛かります」
「手弁当ですか」
「はい」
疲れた顔をほころばせる。
「がんばってください」
そうとしか言えない。
おみやげに『尾道物語・幻想篇』をさしあげる。
「つぎの本が出ましたら、また駅前の啓文社で買いますよ」
ありがたいな~。
しかし、一票を約束すると、心にもないことは言えないし。
30分ほどの雑談の後、客人たちは腰をあげた。
雨の中を、お二人は何度も頭を下げながら、帰っていかれた。
ああ、朋あり遠方より来たる、また楽しからずや。(有朋自遠方来、不亦楽乎)
お会いして、よかった、と思っている。