敗者の気分
いよいよ熱帯夜のシーズンがきたぞ。
エアコンつけっぱなしで寝ると健康に悪いといわれていても、つい、ネ。
なにしろ、東京で一番の熱帯区が、わが練馬区だもの。
わくわく亭の女房は、寝ていて大変な汗をかく。
夜明け前の、気温上昇の時間に、汗をかくらしい。
朝、まだ畳まれていない、彼女の敷き布団を踏んで、わくわく亭は叫ぶ。
「ワア、水たまりに足を踏み込んだぞ!」
そのくらいの汗をかく。
☆
彼女は40代のころ、フルマラソンを10年あまり走っていた。
多いころには一年に3,4回も大会に参加して42.195キロを完走していた。
夜行バスで東京から河口湖へ行き、午前中に完走して、夕方バスで東京に戻り、
買い物をして、夕食までには帰宅していたのだから、スーパーウーマンだった。
☆
朝、シャワーをあびて、着替えをして、台所で僕の朝食をこしらえていると、
炊飯器が蒸気を噴出したり、ガス台のみそ汁ができあがる頃には、
大汗で、またシャワーが必要になる。
着替えを2度、3度として出かけることになる。
☆
今朝は、ことのほか汗をかいていた。
「これ、見て。こんなに汗が」
「すごい汗だ」←見ていない。そんなもの、見る気がしない。
「背中のここの汗、すごいでしょ。見てる?」
「すごいよ」←もちろん、見ていない。
「自分のブログの記事は読め読めって、うるさいくせに、女房の汗は見ないんだから」
彼女はいま脱いだばかりの汗で濡れたシャツに触ってみろと迫る。
「わかったよ。いまトイレに入るところだから」
わくわく亭はトイレに逃げ込もうとしている。
「まって」
女房は強い力で、僕の腕をひっぱり、引き戻そうとする。
「小便が出てしまう」←ウソ。
逃げようとする。
便所の前の廊下で、わくわく亭の腕のツナヒキである。
ついに、女房は汗でぐっしょり濡れたシャツを、僕の腕にべったり、
これでもかと、押しつけることに成功した。
「わかった?」
「わかった」
わくわく亭は、なにか敗者の気分になって、トイレに入ったのでした。