ご近所の川柳作家

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丸山貞治さんから川柳集『夜明け前』をいただいた。

通り一本北側に住む丸山さんは、正確にはわくわく亭の知人というより、
わくわく亭の女房の知人です。

丸山さんは、奥さんには先立たれたものの、娘さんの家族と、川柳を詠みながら、
定年後の悠々自適の生活を楽しんでいるご様子。

『夜明け前』というタイトルから島崎藤村歴史小説を連想しますが、
そのこころは作者が富士登山をした時に見た、夜明け前の厳粛な風景からとったもので、
巻頭句がそれです。

川柳というと、江戸川柳の時代から現代の新聞投句にいたるまで、
滑稽な社会諷刺の句が多いのですが、それとは趣を異にして、
文芸好きの鑑賞にも堪える人生句、生活句といった流れの川柳があります。

わくわく亭は田辺聖子さんの大著『道頓堀の雨に別れて以来なりー川柳作家岸本水府とその時代』
を読んで、そうした文学性の高い川柳について、すこし勉強しました。

丸山貞治さんの川柳も、微苦笑をさそう生活句であり、ほろにがい人生句です。

いい味が出ている句を、わくわく亭流に選んで、いくつか紹介します。


                ○     ○     ○

     損をした金額少し多く言う

     通帳に暗号番号書いてある

     エレベーターはお尻を向けるのが礼儀


暗証番号など暗記するものが多くて、みんなどこかにメモしてますって。
エレベーターで前向きに立っていると具合がわるい。とくに女性が前にいては、
なおさらのこと。なるほど、お尻を向けるのがマナーですか。


     腕立て伏せ地球めっきり重くなる

     明日使う診察券を出しておく

     物ほしそうに優先席に近寄らぬ


歳がいくと、こんな状景が日常的。
診察券忘れていくこともしばしば。
わくわく亭もせっかちなので、かならず前の夜出して置きますよ。
物ほしそうに優先席に近寄らぬ、という句は、高齢者のプライドとやせ我慢を、
たくみに捉えて、お見事。


     百年は長いが百歳は近い

     髪の毛が減って床屋が早く済む

     オセロゲーム勝てなくなったのでやらぬ


百年と百歳の大きな差は、わくわく亭も実感しているところ。
「床屋が早く済む」とサラリと言ってのけるのは、負けず嫌いで立派、立派。
オセロゲームの相手は孫だろう。孫が幼いうちはゲームで負けることはなかったのに、ちかごろ
孫の方が強くなったから、もう「やろうよ」といってきても「やらぬ」とムキになるお祖父さん。


     愛してる 一度も聞かず妻は逝き

     苦瓜を一人で食べる羽目になり

     喪中でも郵便受けを見る賀状


老妻に先立たれた淋しさを、さらりと詠う川柳のいい味わいです。


     平均寿命すぎて再婚あきらめる


男の平均寿命である80歳をすぎて、再婚を望む人もなくはないでしょうが、「愛してる」という
言葉を聞くこともく逝った老妻を思った直後に、これは本気ではないでしょう。
軽い滑稽みをかもしだすためのテクニカルな句でしょうが、面白いですね。

丸山貞春さんは、いま85歳らしいですが、ますますお元気の様子。

このぶんでは、こんな川柳までつくるかも。


     九十を過ぎて再婚ためらわれ   (わくわく亭)