『橋づくし』(7)堺橋
4人の女たちが7つの橋めぐりをはじめ、願掛けをしていたが、すでに2人が脱落している。
残るのは料亭の娘満佐子と、彼女のお供をしてきた女中の「みな」だけとなった。
暁橋まで引き返して、あらためて推理をした。
この橋巡りの(3)で、三吉橋のあった『橋づくし』記念碑に彫られた川と橋の配置図を見た。それによれば、堺橋が架かった川は、築地川とT字型の接続していた。
その川はすでに地中にうめられていて姿はないのだが、元は東流して隅田川に通じていたはずだ。
この橋巡りの(3)で、三吉橋のあった『橋づくし』記念碑に彫られた川と橋の配置図を見た。それによれば、堺橋が架かった川は、築地川とT字型の接続していた。
その川はすでに地中にうめられていて姿はないのだが、元は東流して隅田川に通じていたはずだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
2人だけになってみて、満佐子は女中の「みな」がはじめてまともに意識されるようになった。
ただ不細工な田舎出の少女だと、さげすんでいただけの存在が、にわかに気になる相手となった。
このあたりの人情、人間心理の機微は、三島由紀夫らしく巧みである。
満佐子の心理をこう描写する。
この山出しの少女が一体どんな願い事を心に蔵しているのか、気にしまいと思っても気にせずにはいられない。
何か見当のつかない願事(ねぎごと)を抱いた岩乗な女が、自分のうしろに迫って来るのは、満佐子には
気持ちが悪い。
気持ちが悪いというよりも、その不安はだんだん強くなって、恐怖に近くなるまで高じた。
深夜、女二人が、さびしい川べりの道を、下駄を鳴らしてあるいていけば、そうしたあやしい心理にも
なろうというものである。
なろうというものである。
やがて、満佐子の目に、橋の灯りが見えてきた。
さいごの、7番目の橋である。