木村伊兵衛(11)荷風

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晩年の永井荷風です。

木村伊兵衛がこの写真を撮ったのは1954(昭和29)年ですから、荷風は75歳です。

その前年に文化勲章を受章。

撮影は千葉県市川市菅野の自宅でしょう。日記をつける以外に、文芸作品は書かなくなっていました。

午後には裸の踊り子たちがいる浅草へ遊びに出かけることだけが、荷風日課となっていました。

写真におさまるためにネクタイを締め、ベストを着たのかもしれないが、それならば上着も着たところを

木村さんは何故撮らなかったのか?

荷風はこのころになると、家の中でも外出のときと同じなりをしたりしており、ようするに、着たり脱い

だりが面倒だったからです。ワイシャツにスボンのまま布団に入って寝たりしています。

独居生活の荷風をありのままに、木村さんのライカはとらえたのでしょう。

荷風の前歯は何本か抜けたままで、笑うと見苦しい顔になりましたが、この写真では、まず品よく撮って

あります。

荷風の遺体が通いの手伝い婦に発見されるというニュースは、わくわく亭が高校卒業した年の3月30日

に全国に伝わったのでした。

この写真から4年後のことです。

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荷風が好きな人は、荷風のなにからなにまでが好きになって荷風に「耽溺」してしまう傾向があります。

反対に荷風嫌いの人(女性に圧倒的に多い)は、荷風の作品ばかりか、こんな歯抜けの老醜写真までが、

鳥肌立つほど嫌いになる。そうした作家です。


わくわく亭は荷風の文章が好きです。特に、文語体で書かれた『断腸亭日乘』は近代文学の白眉といって

もいい文業です。

日本の文学作品のなかで、わくわく亭がもっとも好きなものは、

第1位は、勿論『断腸亭日乘』です。

第2位は、森鴎外の『渋江抽斎』です。

この1位と2位はこの15~20年ほどは不動です。

第3位からは、入れ替わり立ち替わりがあって、一定しません。太宰治の『津軽』やら川端康成の『雪

国』やら…。

荷風の『濹東綺譚』初版本について書いた記事はこちらです。

http://blogs.yahoo.co.jp/morioka_hisamoto/22429980.html