ノロの大冒険

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【イメージ画像:山下清の〈清の見た夢〉】



  その1.《ノロの旅立ちの巻》

 ノロは年老いた両親を住吉の地に残して、都(みやこ)へと上りました。途中住吉大社では、あらためて出世ができて、両親をしあわせにしてやれますようにと、祈願しました。

 そのころ、都では、ワクワク大魔王のおそろしい噂でもちきりでした。街の辻々に立つ高札に、人だかりしているのは、ミカドからのお触れが張り出されているからでした。そこには、こう書いてあるのでした。

 〈ワクワク大魔王を打ち倒したものには、マイホームと年金を与えるものなり〉

 ノロは小さくて、高札を読むことができません。なにしろ、ノロの背丈は1ミリにも満たなかったからです。
 ノロは人々の足下に吹く風に乗って上昇すると、高札に張りついて読むことができたのでした。

 頭のいいノロは、りりしい顔をして考えました。

「よし、ワクワク大魔王を倒して、マイホームと年金を手に入れてやろう。そうすれば、老いた両親と一緒に末永く、しあわせに暮らせるから」




  その2.《ワクワク大魔王の巻》

 ワクワク山に来てみると、館(やかた)の前には門番がおりました。あらゆる武術にたけたといわれる女魔王でした。その武術とは、たとえば、ジャズ、ロック、ダンスミュージック、ポップス、演歌(とくに美空ひばり)、ジャズベースの演奏などのおそろしい必殺ワザの数々。

 ノロはすばやく女魔王の口から、体内にすべりこんで、〈破邪の拳〉をつかって、胃から腸を打ち破ってしまいました。
 女魔王は3日の間、嘔吐と下痢に苦しんだあげく、ついに倒れてしまいました。

 館(あまり大きくはなさそうですが)のマドから、これを見たワクワク大魔王は、恐れおののいて、「めまい」を起こし、白い車に乗って、田無山へと逃げ込んでしまいました。

 ノロは風に乗って、あとを追いかけました。

 しかし、大魔王は田無山の堅固な個室にひきこもってしまい、ノロにはどうすることもできません。

 すると6日目のことでした。

 大魔王は、喉がかわいて、そっと個室のとびらを開いたのです。すかさず、ノロは〈酒精の術〉をつかいました。その術にかかると、酒が飲みたくてたまらなくなるのでした。

 大魔王は夜陰にまぎれ、いくつもの酒蔵にしのんで〈あわもり酒〉を9時間も呑み続けました。

 このときとばかり、ノロは大魔王のハナの穴から体内に侵入して、〈破邪の拳〉をふるったから、たまりません。さしものワクワク大魔王も、はげしい嘔吐と果てしのない下痢のために、どうと倒れてしまいました。



  その3.《ミカドからのごほうびの巻》

 ミカドからノロは、ごほうびを貰うことになりました。

 そのとき、ミカドはこうお尋ねになりました。

 「ノロよ。マンションの3DKをとるか、それとも介護つきの老人ホームをとるか、いずれかな」

 親孝行なノロは介護付きホームをとることにしました。

 その親孝行な選択に、いたく感じたミカドは、オマケとして、老齢者の脳の活性化に役立つ〈ぬりえ〉一組をつけてやりました。

 「あの…」と、奥に退座しかかったミカドにノロは尋ねました。

 「あの、お約束の年金はどうなって、おりましょう」

 「あっ、そのことであるか。おまえの両親の生年月日が正しく入力されていないために、記録の照合ができないのじゃ。その作業が完了するまで待て」

 「いつまででしょうか」

 「おまえの両親が死ぬまえには、なんとかなるであろう」



  その4.《結び》

 出世したノロは遠い住吉から両親を都に呼び寄せ、老人ホームへ入所しました。

 さて、行ってみると、ノロの両親よりもはるかに年老いたじいさん、ばあさんがたくさん暮らしておりました。
 
 ノロは考えました。

 「この人たちに、ぴったりくっついて、一日も早く楽にしてさしあげよう」


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 都ではノロ・ウイルスによる感染性胃腸炎が大流行しています。

 みなさん、年末年始にかけて、ノロで倒れませんように、手洗い、うがいを励行しましょう。

 老婆心ながら、(へとへとになった)ワクワク大魔王からの忠告です。