光受くる日に

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 松村信人(まつむらのぶと)さんの第2詩集。第1詩集から27年ぶりの詩集の出版だそうだ。
 
 1948年生まれで、全共闘世代、いわゆる団塊の世代でもある。

 彼の詩には、全共闘時代の闘士として、たがいに激情と挫折を共有していた友人たちの死、それは自殺であったり、事故死、病死であったりするが、さまざまな死への鎮魂の響きをおびたものが少なくない。
 
 激動の時代を過ぎて、平凡な日常生活のなかで思索しながら誠実に生きてきた詩人の、27年間の
言葉の収穫が、この第2詩集となった。

 全30編から、わくわく亭が好きな2編を紹介します。

                 〈還りゆく日々〉

              失なうことで獲られる
              今日のかたちをした未来
              これまでを背負った今在るかたち

              きっと私は目指していた 
              ブランコに揺られながら
              より遠くまで跳べる日が来ることを

              気がつくといつも焦っている
              物語の完結ばかり夢想している

              風の視線で
              点字を解読する
              不明な世界の連続が逆に私を支えている

              携帯電話にせかされて走る
              一日一日の断面に
              映っては消え去る未来図
       
              ねだる駄々っ子のように
              完結への道筋を探る
              明日へと還りゆく日々


                 〈光受くる日に〉

              せめて針の穴ほどの視力をと
              望んでいた
              その永きにわたる光なき世界
              せめて針ほどの光をと
              思いつめていた

              一瞬にして喪くしたもののあまりに多く
              一瞬にして動きそのものさえ忘れた
              色を形を
              音と手ざわりで反復する

              日常はすべからく単純化
              およそ周囲は遠ざかった
              深い深い闇が壁となって
              前に進み行くことを阻んだ
              朝と夜を音と匂いで判別するままに
              時の流れがあるのだった

              せめて針の穴ほどの視力があれば
              せめて針の穴ほどの
              信仰にも似た強い思いに徹した日々
              そしてはからずも
              宇宙の果てからのかすかな暗示があった
              それを予感とよびうるのだろうか
              夢うつつの中での
              はかなげな光の視界が開けてきたのは

              すでに十年という歳月は流れていた


 この詩人は、わくわく亭とは大学の先輩と後輩の仲。

 多少(?)こちらが先輩。いま、ある同人誌での仲間。

 そして、わくわく亭の小説を、すべて世に出してくれる大切な出版社「澪標」(みおつくし)
 の主であり、関西に基盤を置く数少ない文芸誌『関西文学』の発行人でもある。

 第3の詩集もあらんことを。