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 「ブランデーの空きビンが売れる?」で、お寺の若い住職の北京での話を書いたときに、

 彼のエピソードをひとつ思い出した。

 去年の秋の法事のことだったかな。近頃は大きな地震もたびたびあるから、正確にいつの法事の時
 
 だったか、思い出せないが。

  わくわく亭の母の法事で、厳粛に住職があげてくださるお経を、僕ら兄弟、その妻子がこうべをたれ
 
 て拝聴していた。

  ぐらり、と足もとが揺らいだ。地震だ、とわかったが、住職は一心に読経をつづけておいでになる。

 われらが地震だからと立ち騒ぐわけにはいかない。みんな神妙にしている。

  ぐら、ぐら、と揺れは連続してきた。これは危ないかな。

  僕は庭にちかいガラス障子の側に座っていたから、膝のまま横滑りして、いざというときの

 逃げ道確保と考えて、閉めてあったガラス障子を一枚開いた。

  もう一度、ぐらり、ときたときには、たまらず皆が起ち上がって、部屋の中をうろうろした。

 住職はとみると、うろたえることもなく、しまいまで読経をつづけてしまわれて。

  さいわい、地震はおさまって、われわれは、また仏壇に向かって手を合わせたのである。

 すると、お経をあげ終わった住職は、

 「いや、すごい地震でした。わたくしは地震が大きらいで、どうなることかと」

  わくわく亭の妻が、

 「どういたしまして、皆がうろたえていましたのに、ご住職はなにごともなく読経をつづけて

 おいでですから、さすがに仏道にはげんでおいでの方はちがうな、と感心していました」

 すると、若い住職は、両手を振りながら、

 「とんでもない。地震で死ぬのではないかと、必死の思いでお念仏を唱えました」

 道元禅師の教えである「学道の人、身心を放下して、一向に仏法に入るべし。古人いわく、
 
 『百尺竿頭上なほ一歩進む』と」

 その境地からは、およそほど遠い。

    喝!!