京伝鼻
川上桂司さんの「染絵手ぬぐい2人展]で買ってきた一枚です。
江戸天明4年に山東京伝が主催した「手拭合」(てぬぐいあわせ)に、京伝自らが出品した作品を
川上さんが復活させたものです。
暖簾(のれん)から顔をのぞかせた若旦那は、京伝が書いた黄表紙『江戸生艶気樺焼』(えどうまれ
うわきのかばやき)の主人公である艶二郎(えんじろう)さんです。
その本は大変なベストセラーとなって、江戸っ子たちの間で、艶二郎のとぼけたキャラクターと
この特徴のある団子鼻は知らぬものがないほど評判となりました。
黄表紙(きびょうし)というのは、大人向けの絵本のようなもので、絵が主で、文章は絵の説明
でした。
その鼻を人々は「京伝鼻」と呼びました。
京伝は彼の洒落本(しゃれぼん)の代表作『通言総籬』(つうげんそうまがき)にも艶次郎を登場
させて、挿絵には「京伝鼻」を持つ彼を描いたのです。
どちらの本も絵を描いたのは京伝自身でした。
京伝は戯作(げさく)のみならず絵師としても一流でした。
北尾政演(きたおまさのぶ)の名で当時人気の浮世絵師だったのです。
さて、艶二郎、または艶次郎さんは江戸でも百万両の資産家といわれる仇気屋の一人息子で、
なに不自由ない境遇であるのに、なんとかして遊女と浮き名を流したいものと、その顔ではとてもの
こと、吉原の有名な遊女に惚れられるはずがないのに、さまざまバカをやっては、まぬけな結果に
なるという人物。
その憎めない、とぼけたキャラクターが、読者から大いに支持されたもので、京伝は「手拭合」
出品作に、暖簾から覗いた団子鼻の「艶二郎」をデザインしたというわけです。
画像は『江戸生艶気樺焼』の表紙(艶二郎の鼻をご覧あれ)と、まえにも使った山東京伝の
肖像をもう一度。