まんが絵本『いきのびる魔法』

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美術家の横尾忠則さんが「何度読んでも胸に響く純文学的漫画絵本だ」評していたので、さっそく

書店を2つ回ったが、置かれていなかったので、AMAZON経由で買って読んだ。

西原理恵子さんのまんが絵本『いきのびる魔法』(小学館・1050円)である。


「絵本」としてあるから、大型で絵本サイズ、30ページほどの薄い本である。

2話あって、ひとつはタイトルになっている「いきのびる魔法」、もうひとつが「うつくしいのはら」

で、横尾忠則さんが「何度読んでも胸に響く」と激賞したのは後者についてである。。


「いきのびる魔法」は2012年8月5日、朝日新聞の「いじめられている君へ」という著名人からの

提言シリーズに「上手にうそをついて」と題して寄稿した文章をマンガ絵本にしたものです。

わくわく亭雑記でも、その寄稿文を紹介した。

《うそをついてください。

 まず仮病を使おう。そして学校に行かない勇気を持とう。親に「頭が痛い」とでも言って

 欠席すればいい。うそはあなたを守る大事な魔法。(略)


 そして16歳まで生き延びてください。(略)


 高校生になれば、アルバイトができる。お金を稼ぐということは自由を手に入れるということ。

 その先に「ああ、生きててよかった」と思える社会が必ず待っています。》

西原流の、悪徳のすすめ的な、逆説的いじめ対策が提言された。

それを、ほんの少し手直しして絵本化している。



併せて収録した「うつくしいのはら」は帯文に「珠玉の名作、同時収録」としてあるが、

「珠玉の名作」と銘打って、おかしくはない。まちがいなく西原作品のなかでも屈指の傑作だと

いえる。

12ページの短い物語。

どこか、日本ではなさそうな国の、難民キャンプのような場所に暮らしている少女が、

毎日字を習いに教室へ通う。「字が読めたら世の中がわかる、商売ができる、ごはんが買える、

かぞくがいっしょにいられる」と教室でシスターに教えられる。

食糧支援をうけるため、貧しい人の列にならんでいると、食糧を配る軍人から屈辱的な扱いを

うける。そのたびに、「私は字をおぼえて、もらわない人間になるんだ」と少女は思う。

ある日、野原で兵隊の死体をみつける。少女はどこからきたの、と死体にたずねる。

「海のむこうの国から」と兵士。

「なんでこんなことしてるの?」

「かぞくをたべさせたかった。もらうのはみじめだ」

少女が兵隊に土をかけたら、次の年そこから空豆の木がはえた。

何年もたって、空豆が少女のお腹に降ってきて、赤ん坊が生まれた。

赤ん坊は、あの死んでいた兵隊の生まれ変わりだと、少女は信じている。

赤ん坊は元気な男の子に育ち、お母さんから「字をならいなさい。そしたら世の中がわかる、仕事が

もらえて、かぞくを食べさせていける」と教えられる。

しかし、かれらの暮らしている場所が、ある日戦場になる。

少年が勉強から帰ってみると、家が燃えて、お母さんは瀕死の状態だった。

「今日はどんな字をならってきたの?」とお母さんが訊く。

「うつくしいのはら」

「きれいな言葉ね。ひとつでも多くの言葉をおぼえなさい」と言い残して、お母さんは死んだ。

少年は若者になり、兵士になる。そして戦場である野原で敵弾にあたって死んでしまう。

そこへ、お母さんが少女の姿で、死体となった彼を見つける。

彼は訊く。

ねえ、おかあさん、ぼくたちは、いつになったら、字をおぼえて、人にものをもらわずに、

生きていけるの。

少女はこたえる。

「わからない。それは誰にもわからないの。でも次にうまれて人になるために、ひとつでも多くの

言葉をおぼえましょう」

死体の若者はこたえる。

「うん、かあさん」

そこには風が吹いて、空豆の木がゆれる、うつくしいのはらが広がっている。

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わくわく亭の息子が読んだ。感想を訊くと、

「すごく、いいよ。鳥肌が立った」

「うつくしいのはら」は12ページの物語であるが、定価1050円は、とんでもない

お買い得な、胸にしみる絵本の傑作です。

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