松本大洋『GOGOモンスター』
尾道大学での講義の準備をはじめないと、と「勉強」は自宅ではできにくいから大泉図書館へ行く。
図書館では新聞や雑誌を読むから、勉強はできなかった。図書館から駅前まで散歩して、古書店に寄ると
とり・みきの『しまった』は500円だったが、まだ彼の若いころの作品集で、かなり未熟な内容
で、「傑作集」というコピーにだまされた感じで、「しまった」と思った。
松本大洋の本は定価2500円で455ページの大作。こちらは1000円だったが、どっしりと
腹にこたえる力作だった。完成まで3年を費やした書き下ろし作品だと言うことで、作者の強い
思い入れが感じられる。
小学3年生が主人公で、自分の純粋な感覚、感受性の内側から出ようとしない少年ユキと、転校
してきた普通の気心のやさしい少年マコトの春から、つぎの春までの一年間を描く。
「目に見えない物や耳に聞こえない音に敏感な子」であるユキは、「むこうの世界」と言う。
むこうの世界がどんな世界なのか、4階建て校舎の、5階のそのまた上階へと上って行くことで、
その世界の深淵を体験する。
少年期から思春期へと成長する過程で、ユキが体感する、さまざまな異変を、松本流の強い太い
線で描かれる。現実の世界に戻ったユキが、春の陽射しの中を、マコトと自転車で走り去る、美しい
絵でエンディングとなる。
松本大洋が純粋な少年期とはなにか、それを少年期特有の「空想」とか「妄想」と呼んで安易に
片付けず、深く思索しながら、真っ正面から取り組んで見せた力作だ。