わくわく亭の孫は双子

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わくわく亭には2人の息子がある。

ダイスケとジュンである。

下の息子ジュンは13年前から沖縄で生活している。

彼の恋人アキナは、うるま市に生まれ育った生粋のシマンチュ(島の人)である。

アキナとジュンの年齢差は10歳で、もちろんアキナが年下。

二人が知りあってほぼ5年、一緒に暮らすようになって数年になるらしいが、

ことし婚姻届を出したのはアキナがみごもったからで、10月の末ちかく、彼女は無事に出産した。

生まれたのは元気な双子の女の子だった。

ミウ(美海)とミク(美空)と名付けられた。


双子の孫を抱くために、わくわく亭の女房は、飛行機が怖くてこれまで唯の一度も乗ったことのない

飛行機に決死の覚悟で乗って、上の息子ダイスケとともに、羽田から沖縄那覇へと発った。

11月19日だった。

わくわく亭は神戸に所用があったため、一人遅れることになった。

19日の夜11時すこし前に、彼女から電話があった。

かなり興奮した声だった。飛行機の恐怖心に打ち勝つために、出発前に空港で酒を飲み、

機内でも飲んでいたそうで、那覇空港に無事到着してケータイで連絡してきたのだが、

すっかり「出来上がって」いたのである。

「大丈夫でした。無事につきました。いまからホテルのシャトルバスに乗るところです。

あなたも気をつけて来て下さいね」

とあわただしく話し終えると、電話は切れた。



わくわく亭は21日に神戸に行き、22日に神戸空港から那覇へ向かった。

はじめての沖縄旅行となった。孫が誕生したからで、そうでもなければ、観光目的などでは

めったに長旅をしないわくわく亭が、沖縄へ行くことはなかっただろう。

午後の4時すぎ、那覇空港には女房とダイスケが出迎えてくれた。

女房はTシャツとショートパンツという夏姿である。

こちらはヒートテックのズボン下をはき、厚手のシャツにウールの背広、あまけにカシミヤの

ベストまで着込んでいる。

到着ゲートまでの長くもない距離を歩くだけで、背が汗ばむ。

さすがにベストは脱いでバッグにおさめたが、バッグには神戸で首に巻いていたマフラーと

毛糸の手袋がしまってあった。

ミウちゃんとミクちゃん、とってもかわいいわよ」と女房はご機嫌な笑顔だった。


ホテルのシャトルバスで那覇空港から、およそ40分かかって、沖縄市与儀(よぎ)の高台に

立つ東京第一ホテルに到着した。

部屋は13階で、バルコニーから海岸が見えた。海は太平洋である。

海岸とホテルの中間に小さな森があり、そのそばに見える中層のアパートにジュン夫婦の部屋が

あるのだった。

海岸までの風景が白く明るく見えるのは、住宅や建物の色彩のせいである。

ほとんどが白い四角形をしたコンクリート建築で、まるで地中海に面した南欧中央アジア

風景を思わせる。

シャワーを浴びて、着替えをする。もちろん、わくわく亭も夏着である。

やがて、2台のベビーカーをつらねて双子のミウとミクがやってきた。

ジュンのかわいい新妻アキナと初対面の挨拶をする。

「おじいちゃんだよ」

「ささ、おじいちゃんに抱いてもらいましょう」

みんなが言う「おじいちゃん」が、わくわく亭のこととはわかっていても、

いきなり「おじいちゃん」呼ばわりされても、まだこちらは「おじいちゃん」と呼ばれる

準備、態勢が整っていない。

つべこべ言う間も与えられず、わくわく亭の腕には、生後まだ30日にも満たない

赤子が抱きかかえられることになる。

たっぷりと乳を飲んで心地よげに眠る子の、その温もりと、かぐわしい身体の重みを

しっかりと、わくわく亭はたしかめているのである。