自殺か脱出か
下駄箱の上に金魚鉢を置いてある。
昨年の秋、北野神社の祭礼の金魚すくいで取ってきた三匹が、
元気に生き延びてきた。
それが、先月、ふと鉢をのぞいてみると、一匹足りない。
ひょっとして、飛び出したのかも、と足もとをさがすと、見つけた。
ほとんど仮死状態だったが、水に戻してやると、しばらくして蘇生した。
「水が多すぎるんじゃないか」
わくわく亭の進言によって、水が減らされたらしい。
ところが、それから何日かして、
「一匹いない」と女房が気付いた。
あたりをさがすと、靴の中でみつかった。
しかし、こんどは半分干からびていたから、鉢を飛び出して二、三日経ったらしい。
庭の土の下に葬られた。
おなじ金魚が二度ジャンプしたのだろうか。自殺か、自由をもとめて脱出をこころみたのか。
それから、また何日かして、別の金魚がいなくなった。
これも、下駄箱の下から、ほこりにまみれて、乾燥状態でみつかった。
4,5日も経っていたのではないか。
とうとう、黒い出目金一匹だけになった。
こいつは、はねたりするところを見たことがないから、脱出はすまい。
かわりに、メダカが二匹鉢に放たれた。
いまのところ、メダカに不審な行動は見られない。
それにしても、なぜ金魚は2匹とも、鉢からジャンプしてしまったのか。
謎である。