横尾忠則『Y字路』(4)

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この「Y字路」には「TとRの交差」というタイトルがついている。

TとRが何のイニシャルなのかわからない。汽車が接近しているし、路上に止まれの文字が描かれている
ところから、画面の右手に踏切があって、それを意味したイニシャルかとも推理するのだが。

この2002年の作品に横尾忠則は、つぎにメッセージをつけている。

ぼくの作品の中には、様々なナゾが隠されています。

じっくり見て頂ければ、そのナゾはしだいに姿を現すはずです。

それは、作品がシリアスになることを、防ぐ手段でもあります。

隠されたナゾとは何か?

【その1】

正面のコンクリート塀に「ITALIAN FILM」の文字つくポスターらしきものが貼ってあって、シュールな絵がある。

絵はギリシャ生まれのイタリア人画家デ・キリコの「アリアドネ」と「イタリア広場」をモチーフ
にしたシリーズの一枚らしい。

遠くかなたに2本の塔があって、その下を煙をたなびかせて汽車が走っている。

その汽車が、ポスターから抜け出して右手に轟然と走ってくるのだろう。

【その2】

広場に横たわった彫像はクレタの豊穣の女神アリアドネである。

そのアリアドネの生まれ変わりが、右手奥に見えている映画看板の中に横たわったイタリア美女
という発想ではないか。

それは1962年に制作されたイタリア・フランス合作のオムニバス映画『ボッカチオ’70』の
映画看板である。

すると、キリコの絵画に何故『イタリアン・フィルム』というロゴをつけたか推測できる。

「イタリアン・フィルム」とはイタリア映画のことだから、それが『ボッカチオ’70』へと連絡するという横尾忠則の仕掛けである。

【その3】

映画は4つの短編から構成されていた。

その第2話が、「アントニオ博士の誘惑」である。

監督はフェデリコ・フェリーニだった。

謹厳な禁欲主義の博士が、自宅の前にこしらえられた広告看板の超グラマー美女を、迷惑に思っていたところ、夜になって、看板から抜け出た身の丈16メートルもある巨人のブロンド美女においかけまわされる奇想天外な話。

美女はアニタ・エクバーグが演じた。

横尾忠則にとって、アニタは現代のアリアドネなのだ。

【その4】

右には豊穣の美女と蒸気機関車であるが、

左の道には何があるか?

道のむこうに、町が見える。

2本の高い塔がある。その横にはイタリア風な建物がある。

イタリア広場というのはパリにあるが、キリコが描いた一連の「広場」はパリらしくない。

イタリアのペルージャにある「広場」をイメージしたのだろうか。観光写真で見ると、ペルージャ

の「イタリア広場」にある建築のアーチ形の様式はそれらしい。

しかし、現実の「広場」の写生ではもちろんない。

「Y字路」の左道を行けば、そこはキリコが彼のシュールな空間として描いた「イタリア広場」があるのだろう。

【その5】

さいごのナゾは手前に写っている不気味な影法師である。

怪物のようではあるが、なにものなのか、得体がしれない。



絵画に隠された秘密や謎解きは、絵を見るお楽しみの一つでもあります。


まだ、ほかに横尾忠則の仕掛けたナゾに気づいた人は、どうかご教示ください。