ツムラのキリン

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JR東京駅の八重洲口からまっすぐ東へ延びる八重洲通りと、日本橋通りが交叉する地点の角に、この金属製のキリンは立っている。四つ角の別の一つがブリジストン美術館があるブリジストンビル。

このキリンは旧社名を津村順天堂といった現ツムラ社が、目抜きの日本橋4丁目角に建設した本社ビルの入り口に、さっそうとたてられた鍛金彫刻家の安藤泉さんの作である。(1989年)

安藤泉さんは金属を材料にした大小の動物の彫像で有名で、現在は多摩美大の客員教授などもつとめているらしい。

当時ツムラは、自社製の漢方薬が保険医薬品に認定されるわ、入浴剤バスクリンはテレビ広告の成功などで売れ行きが飛躍的に伸びるわで、破竹の勢いだった。

キリンがいるビルの一階には欧州から輸入したアンチークなどの高価な調度品・工芸品を誇らしげに飾ったショップを開いていたが、どうみても経営者一族の金にあかせた道楽にしか見えなかった。

金色の王冠を頭頂にいただくキリンは、そのお道楽のシンボルに見えた。

ところがバブル経済が破綻して金融収縮がきびしかった1997年、いわゆるツムラ事件が起こる。

創業一族の津村昭氏が、巨額の債務保証で特別背任罪に問われ、逮捕されるのである。

その後創業一族の放漫経営からの再建をせまられると、道楽のアンチークショップは当然のごとく、閉鎖された。

ツムラの本社も別の場所に移転する。

いまもこのビルがツムラの所有物なのかどうか不明だが、ビルには不動産会社のロゴが掲げられている。

このキリンが、なぜこの場所に立っているのか、いまとなっては理由を知る由もない人々が、その下を毎日往来しているのである。