本能寺の焼け瓦

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ご覧の丸い瓦につけられた漢字の銘が面白いのです。


そのことを話すまえに、去年の8月に報道されたニュースを見落とした人のために、この発掘について簡単に説明しておきましょう。

関西文化財調査会は2007年7月下旬から、マンション建設にともない京都中京区の旧本能寺跡の一部分とみられる場所を発掘調査していました。その場所は、現在ある本能寺からは、やや離れた別の場所です。

調査した旧本能寺とは、いうまでもなく、織田信長明智光秀の謀反により自害したとされる、いわゆる「本能寺の変」の歴史的大事件の現場ということになります。

その調査によって、旧本能寺の周囲には堀と石垣がめぐらされており、信長が京都での宿舎として使った本能寺だけに防備に力を入れていたことが確認されました。その堀の後から土器、焼けた瓦などが大量に見つかったのです。

その中に、一枚目の写真(asahi.comが掲載したもの)のような丸瓦があったのです。

これと同様なデザインの瓦は、これまでにも幾度かの調査の時にも発見されていました(二枚目の写真)。

本能寺が火災にあったのは、なにも「本能寺の変」が最初ではなかったのです。なにしろ室町時代から戦国時代にかけて、京都は度重なる戦乱のために幾度となく戦火で焼かれました。
本能寺もたびたび火事に遭っていました。

そこで、寺では火による災厄を逃れる「おまじまい」をしたのです。

寺の名前の「能」の漢字、これをよく見ると、旁(つくり)に「ヒ」が二段になって使われています。
これが「火」を呼ぶ原因にちがいない、縁起の悪い「ヒ(火)」の字を消してしまうべきと、験担ぎをしたのでした。
「能」の漢字から「ヒ」を取り去って、かわりに「去」の字を嵌め込みました。
「去」は音では「キョ」ですが、訓読みでは「しりぞける」です。つまり、火の禍をしりぞける、という意味をもつ字を瓦に彫り込んだのです。

以来本能寺では、現在もその字を使っているそうです。

この字を刻した丸瓦が出土したということは、そこがかつての旧本能寺のあった場所だという強力な証拠になったのです。

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 さて、お話はここからです。

 朝日新聞あるいは地元の京都新聞をはじめ、各紙でこのニュースは報じられましたが、旁に「去」をはめた漢字のことを、どこもつぎのように説明しています。

     “瓦の中に能の異体字でヒ(火)を避ける意味で、つくりを「去」とした
      字が丸瓦にあり、本能寺の瓦であることが裏付けられた”

 瓦に彫られた字は「能」の“異体字”だと書いているのです。

 異体字とは、たとえば「体」の漢字。音は「タイ」です。意味は「からだ」です。これと同じ音で、同じような意味をもつ漢字「躰」「體」「軆」、これらを異体字といいます。

 丸瓦につけられた字は「能」の異体字であれば、「能」とおなじ意味で、おなじ「ノウ」という音をもつ漢字ということになります。
 それを「ノウ」と音で読めるでしょうか?漢字の常識からして「キョ」としか読めないのでは。
 ということは、「異体字」とはいえないのです。


 わくわく亭はパソコンの辞書でこの字を探しましたがみつかりません。手もとにある漢和辞典、漢字辞典にもありません。

 この字は、はたして漢字の「正字」として存在するのでしょうか。

 どなたか、大漢字辞典、大漢語辞典などおもちであれば、調べてください。

 それは「能」の「異体字」として存在するのか、どうか。

 見つかったら、ご教示くださいませんか。



 確かな、記憶ではないのですが、わくわく亭は以前、この文字について本能寺の僧侶が語った記事を見たように思うのですが、その字を寺で考案したというものでした。
 記憶にあやまりがなければ、つまり、本能寺で造ったアイデア文字なのです。

 本能寺のお坊さんたちが創作した「おまじない」のための文字ではないのか。

 新聞社はその点について、本能寺に確認の取材をしなかったのでしょうか。

 どちらにしても「ノウ」と発音しない字であれば、異体字とはいえません。

 わくわく亭は、強気でこれを書いていますが、どなたかが漢字辞典で、その字が見つけて、そして「ノウ」と発音するのだと、ご指摘があれば、平謝りするつもりです。